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日記、映画&本のレビュー、ネタぽろりなど。自由に不定期更新中。 更新報告も行います。
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SSS 20のお題 ホラー系より
※本館で使用予定です

 05闇に向かう道

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「てゆーかさ、なんで名探偵そんな落ち着いてるわけ?」
疲れたようにKIDが聞くから『なんとなくだ!』と答えたら更に脱力された。
そりゃー俺だって訳わかんねーけど、俺の適応力には定評がある。なにせコナンになったときだってその適応力のおかげで蘭の家に転がり込めたんだし。
まあさすがに幽体になってここに浮かんでたときはびっくりしたけどさ…。
『だってしょうがねーじゃん?』
俺がそう言って笑うとあいつはハッとしたようになって「…ごめん」て呟いた。まあこいつもショックだろうな。今まで少なからず関わり合いのあった相手がいきなり幽霊になって現れたら、普通は信じられないだろう。こいつも人の子ってことだ。
「名探偵…成仏しちゃうの?」
おいお前さっきからKIDの口調が崩れてるぞ。
『さあー。わかんね』
「……………………」
『いくら俺だって幽霊は初体験だし』
「……まあ、そうだよな……」
こいつは一応納得したみたいだった。
『ただあいつらのこととか気になるし、いっぺん家に帰ろうかなってさ』
「名探て…」
『そんな顔しなくっても家に帰ったくらいで成仏するかよ!』
置いてかれる犬みたいな目すんなよな!反則だぞ反則!
『まあ幽霊になって初めに会ったのお前だし。なんか縁があるんじゃねぇ?成仏しちまう前に挨拶にでも行くって』
幽霊に慰められてるKIDの図っていうのもなかなか珍しい。てか、普通はないはずだ。
「…う~こんなことならもっと早く、お前に会いにいっときゃよかった」
はあ、と切なそうにため息混じりで呟かれると、こっちとしては、なんで?とか聞き返せない雰囲気だ。
いやむしろ。
『俺は会いたくないね』
「え…」
だからそんな顔すんなって!!
『お前に会うとしたら現場で直接か、もしくはお前の正体をつきとめて、俺が会いに行くとき-なんだからな!』
にい、と笑ってそう告げるとあいつは初めて笑った。
「ははっ…名探偵らしいや…」
あったりめーだ。
それに、なんだか…死んでるって感覚がしない。未練があるってことなのかどうなのか。
「KIDがいたぞ!追え~!!」
どうやら中森警部が追いついてきたらしい。俺たちはもう一度顔を見合わせて笑い、あいつはハングライダーで地を蹴った。




*****

感情を殺すのは難しい。けれど快斗はハンターとしてそれをコントロールする術には長けていました。ハンターは常に冷静でなければならないのです。動物は人よりも感情の高ぶりに敏感だし、感情は冷静さを失わせます。通常以上の力を引き出せることもあるかわりに一歩引いた判断ができなくなってしまうのです。ハンターとしてそれは致命的なものでした。
長年にわたり培ったそれらの習慣がその瞬間も無意識のうちに発揮されて、快斗はただ捕らわれようとする新一を黙ったまま見つめていました。
細い腕が上がり、大きな網を持ち上げようと動きます。
太くて丈夫な縄が彼を縛りあげんと絡みついて、彼はただもがくしかありません。
明らかに彼が完全に捕まるのは時間の問題でした。

知らず知らず、快斗は拳を固く握りしめていました。
叫び出したいような衝動を抑えるにはずいぶんと努力が必要でした。
(…本当にいいのか)
(恩を仇で返すような真似してそれでいいのか)
(でも金が要る。金が…。俺は…)
迷いがどんどん膨らんでいきます。

(だけどお前がただの狩人だったら、俺は助けたりしなかったぜ)新一の、どこか無表情ながらも見せた笑顔を思い出したとき、揺れ動いていた快斗の心は定まりました。

新一をどこかの金持ちに差し出して、それで得た金はもう汚れています。
そんな金では母は救われない。
何より、新一を、彼の信頼を裏切りたくない。
そう感じたのです。
快斗は素早く密かに弓をつがえ、網を引いている雇われ男を狙いました。こちらの様子に気がついたらしい白馬の、驚いた顔が視界のはしに映ります。
構うものか――
ですが矢が弓を離れるほんの一瞬前、新一が快斗の方を見ました。なぜかそれは怒りでも悲しみでも、責めるような目つきでもありません。ただ、新一は目線一つで快斗の動きを止めてみせました。
知らず指から力が抜けて快斗は弓を下ろします。

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