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日記、映画&本のレビュー、ネタぽろりなど。自由に不定期更新中。 更新報告も行います。
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感情を殺すのは難しい。けれど快斗はハンターとしてそれをコントロールする術には長けていました。ハンターは常に冷静でなければならないのです。動物は人よりも感情の高ぶりに敏感だし、感情は冷静さを失わせます。通常以上の力を引き出せることもあるかわりに一歩引いた判断ができなくなってしまうのです。ハンターとしてそれは致命的なものでした。
長年にわたり培ったそれらの習慣がその瞬間も無意識のうちに発揮されて、快斗はただ捕らわれようとする新一を黙ったまま見つめていました。
細い腕が上がり、大きな網を持ち上げようと動きます。
太くて丈夫な縄が彼を縛りあげんと絡みついて、彼はただもがくしかありません。
明らかに彼が完全に捕まるのは時間の問題でした。

知らず知らず、快斗は拳を固く握りしめていました。
叫び出したいような衝動を抑えるにはずいぶんと努力が必要でした。
(…本当にいいのか)
(恩を仇で返すような真似してそれでいいのか)
(でも金が要る。金が…。俺は…)
迷いがどんどん膨らんでいきます。

(だけどお前がただの狩人だったら、俺は助けたりしなかったぜ)新一の、どこか無表情ながらも見せた笑顔を思い出したとき、揺れ動いていた快斗の心は定まりました。

新一をどこかの金持ちに差し出して、それで得た金はもう汚れています。
そんな金では母は救われない。
何より、新一を、彼の信頼を裏切りたくない。
そう感じたのです。
快斗は素早く密かに弓をつがえ、網を引いている雇われ男を狙いました。こちらの様子に気がついたらしい白馬の、驚いた顔が視界のはしに映ります。
構うものか――
ですが矢が弓を離れるほんの一瞬前、新一が快斗の方を見ました。なぜかそれは怒りでも悲しみでも、責めるような目つきでもありません。ただ、新一は目線一つで快斗の動きを止めてみせました。
知らず指から力が抜けて快斗は弓を下ろします。

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