蝶々 牢屋編
後日アップ予定です
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その鉄格子の奥には見慣れた姿がありました。手足を封じられて床に倒れた新一は死んだように目を瞑っています。快斗は情けなさのあまり爪が食い込むまで腕を握りしめました。
(俺が新一を連れ出さなければ)
(白馬を止められなかったから)
(俺が、新一を売ろうなんて…考えなければ)
後悔は後から後から止まることなく湧き上がってきました。言いたいことはいっぱいあったけれど、言うべき言葉は一つしかないことを快斗は知っていました。
「ごめん、新一」
深く、強い自責の念で快斗は押しつぶされそうでした。呪文のように幾度かごめんと呟き、鉄格子越しの新一を見つめます。
「何か…考えがあるんだろ?」
だから簡単にとらえられて見せた。快斗を止めた目線は、きっとこうなることを最初から予測していたからではないのか。
それはむしろ快斗の願望かもしれません。
しかし新一の考えを邪魔したりしないよう、快斗は最大限努力するつもりでした。
あのやり方を選ばない男達と新一とではどちらを信じるかは明白です。
たとえ、新一があやかしだったとしても。
「…」
ゆっくりと。
新一は目をあけました。ふう、とため息のように吐き出してかすかに身じろぎしました。
「快斗…?何故帰らない?」
聞こえてきた声には責める色はありませんでしたが快斗は打たれたように身をすくませました。
「償いを、したいから」
「俺はお前がそのまま帰るんならそれで良かったんだけどな…」
苦笑気味に返された答えに戸惑いは深くなります。けれど。
「置いては帰れない」
言い切った快斗に少し間をおいて新一はふっと笑いました。今まで見た中で一番艶やかな微笑でした。
吸い込まれるように快斗は鉄格子に身をもたせかけた新一のあごをそっと引き寄せます。静かに唇を重ねている間、二人は身動きひとつしませんでした。
一方、白馬は広い屋敷の一室で快斗の帰りを待っていました。
先ほどからあまり気分が良くありませんでした。普段ならば金を受け取るのはもちろん、関わるのも嫌な金持ちが相手なので余計にです。珍しいものを収集するのが趣味の好事家ということでしたが、白馬は白馬なりにものを見定める目を持っていましたのでその金持ちの主人はひたすらステータスとしての収集を行っているだけの人物であるということをちゃんと見抜いていました。系統だった収集方針や基準というものが感じられない展示品は如何にも見た目が高価そうな、という点だけが共通しています。
それにしても、と白馬は先ほどのあやかしの姿を思い浮かべました。
「彼」は本当に価値があった。
白馬ですら一瞬、魅入りそうになりました。最も印象的なのは彼の何とも言えぬ瞳の色です。長く伸ばした前髪によってちらりとしか見えませんでしたが、深い深い蒼さに心が惹かれたのは確かです。
おそらくは黒羽快斗も、また。
そのとき、ようやく例の金持ちが来たのだろう、廊下を歩く足音が近づいてきました。
「黒羽くん…目的を、忘れないでください…」
我知らず、白馬は呟いていました。
(俺が新一を連れ出さなければ)
(白馬を止められなかったから)
(俺が、新一を売ろうなんて…考えなければ)
後悔は後から後から止まることなく湧き上がってきました。言いたいことはいっぱいあったけれど、言うべき言葉は一つしかないことを快斗は知っていました。
「ごめん、新一」
深く、強い自責の念で快斗は押しつぶされそうでした。呪文のように幾度かごめんと呟き、鉄格子越しの新一を見つめます。
「何か…考えがあるんだろ?」
だから簡単にとらえられて見せた。快斗を止めた目線は、きっとこうなることを最初から予測していたからではないのか。
それはむしろ快斗の願望かもしれません。
しかし新一の考えを邪魔したりしないよう、快斗は最大限努力するつもりでした。
あのやり方を選ばない男達と新一とではどちらを信じるかは明白です。
たとえ、新一があやかしだったとしても。
「…」
ゆっくりと。
新一は目をあけました。ふう、とため息のように吐き出してかすかに身じろぎしました。
「快斗…?何故帰らない?」
聞こえてきた声には責める色はありませんでしたが快斗は打たれたように身をすくませました。
「償いを、したいから」
「俺はお前がそのまま帰るんならそれで良かったんだけどな…」
苦笑気味に返された答えに戸惑いは深くなります。けれど。
「置いては帰れない」
言い切った快斗に少し間をおいて新一はふっと笑いました。今まで見た中で一番艶やかな微笑でした。
吸い込まれるように快斗は鉄格子に身をもたせかけた新一のあごをそっと引き寄せます。静かに唇を重ねている間、二人は身動きひとつしませんでした。
一方、白馬は広い屋敷の一室で快斗の帰りを待っていました。
先ほどからあまり気分が良くありませんでした。普段ならば金を受け取るのはもちろん、関わるのも嫌な金持ちが相手なので余計にです。珍しいものを収集するのが趣味の好事家ということでしたが、白馬は白馬なりにものを見定める目を持っていましたのでその金持ちの主人はひたすらステータスとしての収集を行っているだけの人物であるということをちゃんと見抜いていました。系統だった収集方針や基準というものが感じられない展示品は如何にも見た目が高価そうな、という点だけが共通しています。
それにしても、と白馬は先ほどのあやかしの姿を思い浮かべました。
「彼」は本当に価値があった。
白馬ですら一瞬、魅入りそうになりました。最も印象的なのは彼の何とも言えぬ瞳の色です。長く伸ばした前髪によってちらりとしか見えませんでしたが、深い深い蒼さに心が惹かれたのは確かです。
おそらくは黒羽快斗も、また。
そのとき、ようやく例の金持ちが来たのだろう、廊下を歩く足音が近づいてきました。
「黒羽くん…目的を、忘れないでください…」
我知らず、白馬は呟いていました。
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