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日記、映画&本のレビュー、ネタぽろりなど。自由に不定期更新中。 更新報告も行います。
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蝶々8

※後日アップ予定です

入ってきたのは杖をついた老人でした。貫禄ある衣服を着こなし、若い頃はさぞ美丈夫だっただろうと思わせる顔つきです。
ただその眼光は鋭く、狙った獲物は逃さない猛禽を思わせるものでした。金を惜しまずあやかしを手に入れようとするやり口はあまり気持ちの良いものではありません。
「奴を捕らえたというのはお前たちか」
問われて白馬は内心で顔をしかめてうなずきました。
「…こちらの方たちもです。それから、」
「もう一人の坊やはどうやら奴に魅入られたようだ」
黒羽くん、と紹介しようとした白馬は遮るように口を挟んだ男を思わず見返しました。
黒髪に黒服の男は嘲るように笑って言いました。
「奴らはそうやってとり殺すのさ。あのガキも、今頃どうしているのか…」
「もう遅い」
銀髪の男が言い捨てました。口元と目は薄く笑っていましたが、その冷徹さは際だっています。
白馬は反論しようと口を開きかけましたが、男の目には人を黙らせる何かがありました。
老人はそれらのやりとりをただ見守っていましたが、白馬が口をつぐむと満足そうに切り出しました。
「よくやってくれた。さて、取り分だが…」
老人が提示した金額は当初示されていたものとはずいぶん違いました。
「契約と違うようですが」
しばらく黙ってから白馬は静かに指摘しました。
「実際に捕らえたのはこっちの二方らしいからな」
「それも契約の内だったはずです!」
顔色も変えずに言い放った老人に白馬は食い下がります。
「はて、そんなことが書いてあったか…」
「卑怯な…」
こんな老人のために、あの宝玉のような蒼を捕らえたというのでしょうか。
正義を己の銘とする白馬にはこれ以上耐えられませんでした。

「守られないのならばこの契約は破棄させていただく」
立ち上がった白馬の首に、いつの間に回り込んだのか、黒服の男がすばやく手刀を打ち込みます。
避ける暇もあらばこそ、白馬は床に倒れ込みました。
「安心しろ、殺しゃしないさ。まだ…」
まだ役に立ってもらわなきゃならんからな。
揺れる視界の中、白馬は何事かを二三言つぶやくと、ふっつりと意識を失いました。
白馬を引っ張って部屋を出る黒服二人は主の老人の指示を仰ぎます。
「もう一人の小僧を捕らえろ。殺しても構わん。こいつは地下牢へ…儂は今から奴の顔を見に行く…」
「わかりやした」
黒服の男たちは別れて長い廊下を進みだしました。



老人は地下牢へ続く道を降りながら笑いが止まりませんでした。ついに長い間追い求めてきたあの蒼い宝玉が手に入ったのです。手に入れた者が幸せになるという噂もさることながら、老人にとってあのあやかしにはそれだけではない価値がありました。
地下牢の最奥に、そのあやかしは繋がれていました。後ろ手に縛られた手と固く瞑った目、白い顔についた泥。
見るからに痛ましい姿でしたが、老人の目には涙が浮かびました。
歓喜のためにです。

「おお…ついに…」
老人は感極まったように牢の前で立ち止まり、声を漏らしました。
「聞こえておるであろ?わしだ…ついにお前をこの手に捕らえたのだ…儂は嬉しい…本当に…」
横たわる姿はぴくりともしません。
「のう…長かった…随分と時間をかけてしまった。だが、これでもう」
終わるのだ、と吐き出して彼はうつむきました。
その首筋に。
「動くな。…鍵を渡せ」
短刀を構える黒羽快斗が立っていました。
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